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多くの法律が第1条に法目的をおいています。特許法も、御多分に漏れず、第1条は法目的規定であって、「この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする。」と規定されています。
そして、特許法は、産業発達に寄与するという目的を達成するために、第2条以下において、発明の「保護」に係る条項と発明の「利用」に係る条項を設け、それらを調和させるように各条項の内容が規定されています。そのため、第2条以下の条項のすべてが第1条のために規定されているものであり、また、第2条以下を理解することで第1条を理解することができます。
本記事では、発明の「保護」と発明の「利用」を図る条項のうち、第1条に直接的に関連するものを例示列挙しながら、発明の「保護」と「利用」との調和を俯瞰します。
発明の「保護」の側面
まず、発明の「保護」の側面としては、第一に、他社の業としての実施を排除する特許権の発生が挙げられます。特許権は、審査を経て特許査定を受領し、設定登録(第66条)されることにより発生します。そして、特許権の設定登録によって、第68条(特許権の効力)、第101条(侵害とみなす行為)、第100条(差止請求権)、第102条(損害の額の推定等)、第103条(過失の推定)、第196条(侵害の罪)、その他、民法の規定:民709条(損害賠償請求権)、民703条等(不当利得返還請求権)が適用され、発明の「保護」の完全が期されます。
なお、特許権の発生前(設定登録前)においても、発明は、特許を受ける権利(第29条1項柱)として保護されます。特許を受ける権利は、主に、審査手続、および、出願形式という観点で保護されます。
審査手続としては、例えば、拒絶理由を限定列挙とすることで審査官の恣意を排除したり(第49条)、拒絶理由が通知された場合に、補正書提出の機会(第17条等)および意見書提出の機会(第50条)が付与されたりすることで、特許を受ける権利が保護されています。また、出願形式または出願戦術をミスしたときのために分割出願(第44条)をすることが認められ、出願前に公開してしまった場合には、新規性喪失の例外(第30条)の手続も認められます。さらに、審査の結果、拒絶査定を受領してしまったときであっても、拒絶査定不服審判を請求でき(第121条)、審決取消訴訟(第178条)の提起も認められます。一方で、出願形式の保護としては、代表的なものをとして国内優先権制度(第41条)が挙げられます。
発明の「利用」の側面
一方、発明の「利用」の側面においては、特許法は、公開された発明を利用する機会を第三者に与えています。もちろん「利用」とは、無権原の第三者が、特許権の存続期間満了前に発明をつかって事業をすることではありません(それを認めたら、発明の保護が台無しになって本末転倒)。
法目的達成のための「利用」とは、主に次の3つをいいます。
- 発明を、文献的に利用すること
- 発明を、実施権が付与されることで実施すること
- 発明を、存続期間満了後/無効によって消滅後において自由に実施すること
1.発明を文献的に利用するということは、出願日(優先日)から原則1年6月経過後の出願公開(第64条)によって、第三者が出願された発明の内容を知ることができ、それを文献として利用することで、重複研究を回避したり、改良発明の礎にしたりできることを言います。なお、文献的利用を確かなものにするために、出願書類に含まれる明細書の「発明の詳細な説明」は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載することが要求されています(第36条4項1号)。
2.実施権のもとでの発明の実施とは、例えば、契約の範囲で発明を実施可能とするライセンスを受けることで特許発明を業として実施できたり(第78条)、実施権を専有したり(第77条)、または、法律の規定によって実施権が与えられたりします(第79条、第79条の2など)。ライセンスを受けたものは、無権原の第三者という立場ではなくなるため、正々堂々と特許発明を実施する(事業に利用する)ことができます。
3.そして、特許権は原則、特許出願日から20年(第67条)をもって満了するため、その後は、権利が存在せず、第三者も自由に実施(事業に利用)することができます。なお、存続期間満了前であっても、特許無効審判(第123条)によって権利が消滅した場合等には、第三者による自由実施が認められています。